情熱の国・スペイン旅行記 〜序章〜


 

小牧空港17:20発香港行き。その日の14:00すぎ、血眼でパソコンに向かっている私。その後ろで心底呆れている相方。

いかにも前途多難な雰囲気で、今回の旅は切って落とされました。

その切迫した様子を目の当たりにした相方はもちろん、旅行前のにっちもさっちもいってない私の日記をご覧の方も「この人ホントにスペイン行けるの?」と訝しんだことと思いますが、この世の誰よりも訝しんだのはこの私です。

山盛りの仕事(自分のせい)を前に軽いめまいを起こしつつ、3日ほど半徹夜状態でパソコンの前に座っていると期末テストの赤点をチャラにしてやるという条件で夏休みの宿題を12月に提出した自分を思い出したりしますね。

相方は「またこいつは計画性がない…」とため息をつきつつ、いつものことだとあまり気にしてなかったよう。しかし出発の日(空港まで2時間近くかかる)のギリギリまで仕事に追われ、空港へ向かう車の中でも見事に車酔いしながらパソコンを叩いている私を見て、妻の新しい魅力を発見したようです。おめでとう!

肉体・精神ともにフラフラしながら空港到着。チケットをもらい、荷物を預けることに。預けてから気付きました、鍵をかけてないことに。家を出るときにスーツケースの鍵を紛失し、空港で買えばいいと思っていたことをすっかり忘れていたのです。名古屋からスペインまで、誰でも開けられる超ビッチな状態で運ばれていく大胆なスーツケース。あんまり深く考えたくありません。

出国審査を受けるため奥へと向かいます。ここで相方とはお別れ。そう、私は1人でスペインまで行くのです。相方さんは有給が病欠の代わりか免許書きかえのときしか胸はって使えないという不遇な会社に在籍しているので、申し訳ないがお留守番です。

ヨーロッパ放浪している10年来の友人Nちゃんとは、バルセロナ空港で待ち合わせ。名古屋から香港、香港からロンドン、ロンドンからバルセロナという3回の乗り継ぎさえうまくいけば、後は彼女がなんとかしてくれるはず(他力本願)。

まずは手荷物のセキュリティチェック。すると職員「Kです」「Kですね」え、誰ですか?


てっきり誰かのコードネームかと思いましたが、どうやら異物が発見された模様。「荷物をチェックさせて下さい」と女性職員にバッグを探られ、「え、そんな変なものは何も入れてないはず…」と言ったそばからでてきましたよ万能ナイフが。いくらロゴが「冒険倶楽部」だからってこんなとこで冒険する必要はありませんよと言いたげな職員さんに平謝り。先日のバーベキューで持参したものがそのまま入っていたようです。またも呆れ顔の相方に預けて、ようやく日本脱出!


冒険倶楽部はいつでも殺る気満々です。

台北で一時間休憩後、香港へ。さすがは香港、空港がでかいです。方向音痴な私はさっそく迷子に。しかも私、恥ずかしながらこれっぱっちも英語が喋れません。できることといえば、航空チケットを見せて「Where?」とせっぱつまった顔で聞くぐらい。ボディランゲージも駆使すると、「こいつ、かわいそうな子だな」と同情してもらえるのでオススメです。

散々いろんな人に聞いたくせに、搭乗口がわからない私。サービスカウンターのスタッフに聞くと、すぐそこだよというジェスチャー。お礼をいって、指差された方向へ進み、その入口をスルーして歩き続けるアホな日本人(=私)。教えたスタッフは仰天して「hey!hey!」と叫んでいたようですが、普段そんないかしたフレーズで呼びかけられことがないので、気付かず軽快にウォーキング。業を煮やしたその人、私を追いかけてきました。彼の日本語知識をフル活用して。

「コンニチハ!コンニチハ!!コンニチハ!!!(怒)

新手のキャッチセールスかと思いました。すみません、お手数おかけしました。


名古屋→香港、香港→ロンドンはキャセイパシフィック。
エコノミーでもテレビ付き!でも映画の音声は中国語と英語。
……ダメじゃん。


ロンドン→バルセロナはブリティッシュエアウェイズ。
シートも心なしかブリティッシュ(田舎者の発想)

ロンドン・ヒースロー空港の巨大さにビビりながら、日本語アナウンス&標識という異様なまでの親切さに助けられ、無事スペイン・バルセロナに到着。日本から飛行機時間にして約16時間。長かったです。

入国審査も滞りなくパスし、バルセロナに到着した喜びと安心に顔が緩む私。あとは荷物を受け取って、待ち合わせのインフォメーションスペースで友人Nちゃんを待つだけです。

なんだァ全然スムーズだったなァと、「コンニチハ!」と追いかけてきた職員が聞いたら首根っこを掴まれそうな感想を持ちつつ、『手荷物受取所』の表示看板に従い、エスカレーターで下へ。フライト名と受取場所のナンバーを表示する電光掲示板の前で、私が乗ってきた飛行機・ブリティッシュエアウェイズの表示を待ちます。

そして40分後。表示される気配まるでなしのブリティッシュエアウェイズ。最初は遅れてるんだろうと余裕だった私も、これはおかしいと不安が頭をもたげてきました。もしかして、場所を間違えたのだろうか。しかし、エリアは遮断されていて他には行けない。上の階(入国審査のところ)へ戻ることもできない。そしてこの窮状を訴える英語力もない(スペイン語なんてもってのほか)という絶体絶命のピンチ。

と、そのとき。職員とイギリス人と思われる夫婦との会話中に「ブリティッシュエアウェイズ」というフレーズが!さり気なく近付き、何くわぬ顔で必死に立ち聞き。職員は身ぶり手ぶりで「それならあっちだ」と説明しています。しかし、彼が指差した方向には何もなかったはず。なのにイギリス人夫婦は「Oh,OK!Thank you!」と笑顔を浮かべて歩き出します。

Oh!ちっともOKじゃないYO!とお門違いな文句が頭をよぎる私。

アタフタ悩んでいるうちに、さっきの夫婦はさっさとこの魔のエリア(a+r視点)から脱出。思考能力ゼロに陥った私は、慌てて後を追いました。

そして開かれる扉。

税関出ちゃいました。

明らかに日本人(もしくは韓国人・中国人)と思われる娘が、日帰り旅行かというほどのありえない軽装備で登場した上、口を開けて呆然としている図に戸惑いの色を隠せない出迎えの人々(もちろんほぼスペイン人)。私も自分の挙動不審さ加減にさすがに恥ずかしくなり、競歩の要領でその場を後にしました。

その場を離れてみて、胸に押し寄せるやっちまった感。税関をでたら晴れて自由、スペインに到着したんだという実感に身も心も軽くなるはずが、この人質を救出できないまま現場をはずされた刑事のような焦燥感はどうしたことか。

何度も言いますが、私にはこの窮状を訴える英語力が全くありません。しかし英語堪能なNちゃんとの待ち合わせ時間はまだ先。自分で何とかするしかない。観光ガイドの「トラベル会話集」をめくり、現在の状況に一番ふさわしい英文を練習していざインフォメーションカウンターへ。

「I can't find my baggage.(私の荷物が見つかりません)」

案の定、見つからないっていうかお前が間違えたんだろという表情を浮かべるスペインっ娘。わかってますよそんなこと!でも「私、荷物受け取り場所をどうやら間違えて、その上税関まで出ちゃったんです、どうしましょうハハハ」っていう英文例は観光ガイドには載ってないんだよ!

そのスペインっ娘は、私の搭乗券を確認すると「あっちにいって、階段を上がれ」と身ぶり手ぶりで教えてくれました。わけがわかりませんでしたが、聞き返したところでどうせわからないので、お礼をいって教えられた通り動くことに。

あっちにいって、階段を上がったそこは、出国する方々が並ぶセキュリティチェック。

入国したばかりの人間には全く縁がないはずの場所。回れ右をしかけましたが、スペインっ娘が嘘を教えるはずもありません。意を決して、またも「I can't find my baggage.」の出番。男性職員のいや、お前が間違えたんだろという顔に耐えつつ、搭乗券を見せて必死で助けを求めます。最初は「?」マークが飛び交っていたその人も、ようやく状況を理解してくれたらしく、身ぶり手ぶりで教えてくれました。

セキュリティチェックを受けて、中に入れと。

入国して1時間もたたないうちに出国するハメになったお茶目な日本人(=私)。パスポートを確認され、X線で手荷物を、金属探知機でボディチェックをされる私。ここで冒険倶楽部が出てきたら私は今も拘束されていたかもしれませんが、無事通過しました。

男性職員が片言の英語(彼はスペイン語しか話せない様子)で話してくれたことによると、ここバルセロナ・プラット空港の荷物受取所はA・Bの2つのエリアに分かれており、互いに行き来できない構造になっているとか。私は入国審査近くのAエリアに行ってしまったのですが、ブリティッシュエアウェイズの荷物受取所はBエリア。

「キミが行くのはBだ、B!ヴィー!!

歩き出してからも大声で助言してくれた男性職員さん、本当にありがとう。よほど私が頼りなく見えたに違いありません。

彼の「ヴィー!」という雄叫びに励まされながら、Bエリアへと急ぐ私。この時点で到着から1時間は余裕で過ぎています。ここで思い出して下さい、名古屋で預けた私のスーツケースがどんな状態だったか。

誰でも指一本で開けられるビッチな娘を、こんなに待たせてしまっては「もう私の火照りを鎮めてくれるなら誰でもいい」と悪い男についていかれても仕方ない。焦りつつ、ようやくBエリアに到着(この空港もかなり広いのです)。

Bエリアの荷物コンベアを全てチェックしましたが、私のビッチな娘は見当たらない。もうこうなっては戸惑っている暇などありません。近くに並ぶサービスカウンターに片っ端から「I can't find my baggage.」を連発。そしてブリティッシュエアウェイズを担当するカウンターに辿り着いたときには、

I can't find my baggage.←上手になってます。

それを聞いたイギリス人らしきお姉さん、「Can you speak English?」とにこやかに質問してきました。私の答えはもちろんこれです。

No!

じゃあさっきの台詞は一体なんだったの?という引きつった笑いを浮かべるお姉さんに申し訳なく思いながらも、ボディーランゲージ全開で「NO」が嘘ではないことを文字通り身をもって証明。カウンター近くに集められた所有者不明の荷物を全てチェックしてみましたが、私のスーツケースはない。

この日本人どうしてくれようかと途方にくれた感じのお姉さんと顔を見合わせて苦笑いしていると、割腹のよいおっちゃん職員が登場。「ついてこい」と豪快に笑いながら、ドカドカと進む彼。

彼が連れてきてくれたコーナーの片隅には、ひとりぼっちで寂しげに佇んでいるマイ・ビッチが!離ればなれになった恋人に会えたかのようなリアクションでスーツケースに駆け寄る私を見て、またも豪快に笑いながら去っていくおっちゃん。おっちゃん、あんたぁナイスガイだ!(親指を立てながら)

そんなこんなで、やっと待ち合わせのインフォメーションに到着。到着から2時間近くあったはずの待ち合わせ時間ジャスト。

そして友人Nと久々の再会!彼女とは高校時代からの付き合いで、気心がしれた親友です。オーストラリアに2年半在住、アジア地方に約半年の放浪経験ある彼女。ヨーロッパには1ケ月半前から来ています。まあ、その1ケ月半のほとんどをトルコ・イスタンブールの日本人宿で過ごすというすばらしい沈没ぶりを発揮していましたので、ヨーロッパ放浪に慣れているかといえば疑わしいのですが、最近喋った英文が「I can't find my baggage.」のみの私とは比べ物にならないほど頼りになることは確かです。

※沈没とは…観光もせず宿屋で仲間とだべってたりが2週間、1か月と続く人を指す旅用語

再会の喜びに抱き合いつつ、彼女の顔をじっくり拝見。日本にいるときよりも、なんだかのびのびした明るい表情。日本人の常識が通用しない、様々な国を見て暮らすという経験は、間違いなくその人のキャパシティーを広げる力があります。このことに関しては、のちの旅行記のあちこちで詳しく。

余談ですがこの友人Nちゃん。待ち合わせ日のギリギリまでトルコで沈没していたため、懸念していた通りスペイン行きの飛行機がとれなかったらしい。しかし旅のノウハウをまるで持たない赤子のような私がスペインに来ると決まっている以上、行かざるを得ません。そして彼女がとった手段とは……。

トルコからパリへ飛ぶ→深夜列車でスペインへ

私、20数年生きてきてパリを半日観光で後にした人を初めてみました。エッフェル塔、凱旋門、ノートルダムなどを駆け足で巡って、深夜列車の出発ギリギリで焦ったよーなんて笑いながら話すNちゃんに、「アンタ自体がギリギリだよ」とツッコみたい気持ちを抱くのは私だけじゃないと思います。

空港を出ると、強い陽射しが頬を打ちます。しかしさすがは地中海性気候(マドリードは違います)。風が強く乾燥しているので、日陰に入ると大変気持ちがいい。胸がスカッとするような青い空を見上げて、ようやくバルセロナにきたという感慨が湧き、これからの1週間に期待が高まってきました。特に日本が曇り空続きの冷夏だったせいで、「夏」を感じられることが何だかとても嬉しい。

カタルーニャ鉄道に乗り込み、バルセロナ中心部へ。車掌のスペイン人と英語で盛り上がるNちゃんに尊敬のまなざしを送りつつ、車窓をよぎっては遠くなる田舎町の風景に見とれる私。

「本日の車窓は、スペイン・カタルーニャ鉄道…」とひとり世界の車窓からを脳内でオンエアしつつ、スペインの旅は始まったのでした。


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